東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7767号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕原告は被告に対し、本件建物の内五室二十坪を、賃料一カ月一万八千円、毎月末日限り翌月分を支払うことと定めて賃貸したが、被告は昭和三一年八月分及び九月分の賃料を約定期日に支払わなかつたとして、同年九月一九日着の書面で同月二四日限り支払うよう催告し、その期間内に支払のないことを条件として賃貸借解除の意思表示をしたところ、被告が右期間内に支払を怠つたので本件賃貸借は解除されたと主張して、被告に明渡を求めた。被告はこれに対し、後記認定のような事情で、原告が被告の家屋使用を不可能にしたから、前記八月及び九月分の賃料支払の義務なく、原告のした支払催告及び契約解除は効力を生じない、と抗争した。
〔判断〕判決は次のように原告の妨害行為を認定したうえで、被告に八月分の賃料債務の不履行はあつたが、原告のした契約解除は権利の濫用にあたると判示して、請求を排斥した。
「……によれば、原告は、昭和三一年八月末頃被告不在の間に本件家屋の外廻りを焼トタンや古トタンで囲い、本件家屋の出入口を閉してしまつたので、以来被告はこれを使用することができなくなつていることを認めることができる。……の証言によれば、郵便受や牛乳受の附近に釘が一本差し込んであつてこれを抜けば塀は扉として開き、容易に誰でも這入れるようになつている旨の供述があるけれども、同じ証言によれば、この釘は人にみえないようになつているというのであるから、結局被告が本件家屋に帰つてきても、これに這入ることのできない状況にあることには変りなく、原告は、このトタン塀築造の時以来被告に対する賃貸人の義務を怠つているものという外はない。」
「とすれば、被告は、昭和三一年八月末日に支払うべき同年九月分の賃料及びその後の賃料についてはその支払を拒むことができるものというべきも、同年七月末日に支払うべき同年八月分の賃料については、遅怠の責を免れえないものといわなければならない。被告が本件賃貸借を解約すべく、その明渡につき原告と交渉中であつたとしても、この法律効果の発生の妨げとなることはない。しかし、原告のするところは、前認定のとおり、一方において被告の使用を妨害することによつて、賃貸借の正常な存続を不能にしておきながら、他方において同時に被告の延滞賃料債務の履行を催告することによつて、その賃貸借に賃料延滞がもたらした不均衡を正常に復帰させようとするものであつて、とうてい信義誠実を基調とした正当な権利行使であるとはいえない。原告は、すべからく、被告の使用に対する自己の妨害行為を解止した後でなければ、その催告及び解除に対し権利濫用の謗を免れえないといわなければならない。」